《職場の教養に学ぶ》
お題:未来を切り開く言葉
2025年2月5日(水曜)
【今日の心がけ】プラスの言葉を伝えましょう
砂川昇建の思うところ
短編小説を作ってみました。裕美(ひろみ)は、何不自由なく育った。裕福な家庭で、両親は彼女の望むものを何でも与えてくれた。子供の頃から、欲しいものが手に入らないことなどなかったし、何かを「お願いする」こともなかった。家事はすべて母親と家政婦がやり、勉強ができなくても家庭教師が補ってくれた。何かに苦労することなく、すべてが当たり前に手に入る環境だった。そんな裕美も、社会人になり、そして結婚した。夫の直人(なおと)は、ごく普通の家庭で育ち、努力の大切さや周囲への感謝を大事にする人間だった。彼は結婚する前、裕美の何気ない言葉に違和感を覚えることがあった。「これくらい当然でしょ?」 「なんで私がやらなきゃいけないの?」 「困ったら誰かが助けてくれるでしょ。」彼女は、誰かが何かをしてくれることを、当然のように受け取っていた。しかし、直人は彼女のことを「少しわがままだが、環境のせいだろう」と思い、結婚を決意した。しかし、結婚生活は思った以上に大変だった。結婚してすぐの頃、直人は仕事が忙しく、疲れて帰宅すると、家は散らかり放題だった。裕美は専業主婦だったが、家事をする気がなかった。彼女は掃除も料理も「誰かがやってくれるもの」だと思っていたのだ。「ねえ、家ぐらい片付けてくれないか?」 「え? 私、掃除苦手だし、疲れるからやりたくない。」 「でも、俺も仕事で疲れてるんだよ?」 「じゃあ、お手伝いさんを雇えば?」 直人は唖然とした。彼女は、自分で何かをしようとはせず、「誰かがやるもの」としか考えていなかった。夫婦の会話は次第に減り、直人は家に帰るのが憂鬱になっていった。夫婦関係だけでなく、裕美の職場でも問題があった。彼女は有名大学を出たものの、実力というよりは親のコネで大手企業に就職していた。最初は「裕福な家の娘」ということで丁寧に扱われていたが、次第に彼女の仕事ぶりに周囲の視線が厳しくなった。 「裕美さん、これお願いできますか?」 「え、私がやるんですか?めんどくさいなあ。」 彼女は、仕事も周囲が助けてくれるのが当たり前だと思っていた。ミスをしても謝らず、上司に注意されると、「そんな細かいことで怒らなくてもいいのに」と反発する。次第に同僚からの信頼もなくなり、仕事を頼まれなくなった。やがて、社内の評価は急落した。「使えないお嬢様」というレッテルを貼られ、誰も彼女を頼らなくなった。最終的に彼女は閑職に追いやられ、仕事にやりがいを感じることもなくなっていった。そんなある日、直人はついに限界を迎えた。仕事のストレスと家庭のストレスが重なり、彼は裕美に言った。 「裕美、もう無理だ。君は何かをしてもらうことが当たり前だと思ってるけど、世の中そんなに甘くないんだ。誰かが何かをしてくれたら、感謝するものだよ。それができないなら、俺たちの関係はもう続かない。」初めて直人が真剣に怒ったことに、裕美は驚いた。直人は温厚な人間だったが、これまで我慢していた不満が爆発したのだ。 その晩、裕美は一人で考えた。なぜ夫はこんなに怒ったのか? なぜ職場で自分は孤立したのか? その答えが、彼女にはわからなかった。 しかし、次の日、彼女の母親に相談すると、母は静かに言った。 「裕美、あなたは子供の頃から恵まれていた。でも、それは当然じゃないのよ。本当はね、誰かがあなたのために頑張ってくれていたの。お父さんも私も、あなたが困らないようにしてきた。でも、あなたは一度も『ありがとう』って言わなかったわね。」その言葉に、裕美は衝撃を受けた。母親の表情には、これまで見たことのない寂しさがあった。それから裕美は少しずつ変わろうとした。しかし、感謝の気持ちを持つことは、彼女にとって簡単なことではなかった。長年の習慣を変えるのは難しく、つい「なんで私が?」と思ってしまう。しかし、直人が少しでも家事をしてくれたとき、意識して「ありがとう」と言うようにした。最初はぎこちなかったが、少しずつ直人の態度が柔らかくなったのを感じた。職場でも、小さなことでも「助かりました」と言うようにした。すると、同僚の態度も少しずつ変わり、以前より話しかけられるようになった。裕美は気づいた。感謝とは、自分のためではなく、相手のためにするものだと。そして、それが巡り巡って自分の人生をも良くしていくのだと。
著者 砂川昇建